洗足学園音楽大学は近年、クラシックにとどまらないノン・クラシックを学べる場を積極的に提供してきた。2000年に、「ジャズコース」を4年制音楽大学としては国内最初に設置(1996年短大音楽科に創設されたジャズコースが移行された)したのをはじめ、「音楽・音響デザイン(シンセサイザーコースから発展)」「電子オルガン」「ミュージカル」「現代邦楽」と次々新コースを開いてきた。そして来年、2009年度にはいよいよ「ロック&ポップスコース」が登場する。
「ロック」と名が付く学科・コースを置く音楽大学は、国内ではもちろんのこと、世界を見渡しても初めてのケースであろう。そこで、「ロック&ポップスコース」設置の背景と、受験生が一番気になっている入学試験の内容について、新コースの統括責任者である前野知常准教授にお話を伺った。
洗足学園音楽大学准教授、ロック&ポップスコース総括責任者
ヤマハ・アレンジャー、ハドソン・ゲームミュージックコンポーザー
LINDBERGやゆず、甲斐バンドなど様々なアーティストのCD制作やコンサートサポートに携る。洗足学園音楽大学「音楽・音響デザインコース」で作曲・編曲を指導。
「ジャズは100年くらいかけて体系化されてきました。今では学校でジャズを学ぶことにさほど抵抗感はありません。ロックも半世紀経ちました。そろそろ大学で扱ってもいいのではないか」と、前野准教授は語る。「音楽・音響デザインコース」で6年ほど指導されてきた前野准教授は、その間に、今の学生のニーズが見えてきたという。そして「ステージに出たいパフォーマー・タイプと、ステージには出ないで制作の仕事を目指したいタイプの2種類の学生がいる」ことに気づかされた。
「ロック&ポップスコース」の設置によって、ステージに立ちたいけれどもジャズでは少し専門的過ぎる、と考えている学生を受け入れられる体制になる。
「まずは、アーティストになること。次がプレーヤーとして生きていけること」という前野准教授に、その意図を聞いた。
「表に出ていくためには、まずアーティストになることなんです。アーティストというのは、自分をどう表現するかであり、形は何でもいい。自分の個性を見つけることです」。大事なのは“周りの目で見られること”だという。「自分の適正がどこにあるかなんておそらく17〜18歳の頃にはわからない。僕がいつも学生に言っているのは、自分の個性を決めるのは、自分ではなくて周りだということです。人前に出て、人の反応によって、その人の評価や個性は決まっていくものなんですよ」。
自分が何に適しているのか、自分はどう見られているのかを学校という場所は徹底的に見てくれる。そういう経験をどれだけさせてあげられるかが、このコースが目指すところだ。「プレーヤーになるにせよ、プロデューサーを目指すにせよ、自分の個性をしっかりもったアーティストにまずはならなければならないことを指導していきます。だから、専攻する楽器は入学してから変わったっていい。楽器が下手ならプロデューサーの道を目指せばいいんです」というように、在学中に“自分の道”を見つけるためのきっかけをたくさん提示していく方針である。
一般入試(A日程)の入試科目は @基礎楽典 A基礎聴音 B各楽器専門実技。「基礎楽典」と「基礎聴音」は“譜面は読めなきゃいけない”と言うメッセージでもある。「ロックやポップスの場合、基礎的な理論を初めから知っていなければならないかと聞かれたら、答えはNOです。でも、洗足学園音大の特徴は様々な楽器と出合えること。入学したら、弦や管の人たちとコラボレーションができる環境がいっぱいあります。そのときに、C-durと言われてわからないと困ります。基本的なコミュニケーションのツールとして、基礎的な理論は必要だということです」。洗足学園音大が提供している<洗足オンラインスクールオブミュージック>webサイトでは、基本理論がチェックできるので参考にしてほしい。
一方、AO入試の診断時の選曲は、ロック、ポップス、クラシック、ジャズ等あらゆる分野から選曲が可能となっている。「ロック&ポップスという言葉は、広い音楽を指しています。分野にこだわらずに挑戦してほしい」。試験で重視されるのはスピリッツ。自分を出そうとする表現とやる気をどれだけ見せられるかになりそう。
新コースの開設に伴い、来年から新校舎ができる。そこに「ジャズコース」が横浜から移ってくる。「これでジャズコースとのコラボレーションがたくさんできると思います」と前野准教授自身も楽しみにしている。また、今年(2008年)の9月27日には、東京芸術劇場で、アンサンブル・ヌーボーというオーケストラと前野准教授をはじめとする洗足で指導を行う予定のロック・ミュージシャンが共演するイベントを行う。「ロック&ポップスコースでは、様々なコラボレーションを通じて、音楽はジャンルを超えると面白いことができるということを、どんどん学生たちに示していきたい」という狙いがある。
ロックとは、そもそもジャンルの垣根を乗り越え理論をぶち壊してやっていこうとするもの。新コースに“ロック”という言葉を付けているのは、そのスピリッツの部分を伝えたいからだ。
広くポピュラー、ロック、ポップスといった音楽の世界で生きていきたい、仕事をしたいと漠然と考えている人にとって、まさにぴったりのコースが誕生したといえようか。



