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音楽インタビュー MUSIC INTERVIEW

Vol.3 中野振一郎さん
チェンバロ奏者
PROFILE

京都生まれ。
1986年桐朋学園大学音楽学部
演奏学科(古楽器専攻)卒業。

90年10〜11月に大阪で開いた4回連続の独奏会「ヨーロッパ・チェンバロ音楽の旅」により、「大阪文化祭金賞」等を受賞。翌年7月には、フランスの「ヴェルサイユ古楽フェスティバル」のクープラン・サイクルに日本代表として参加。92年6月、「バークレー古楽フェスティバル」に最年少の独奏家として招かれる。93年ロンドンの独奏会場ウィグモア・ホールのデビュー・リサイタルを開き、「日本人には珍しいパーソナリティーを持っている。」と的確な評価を受ける。

CDの収録にも意欲的で、2000年に出した「ゴルトベルク変奏曲」は、ヒストリカルとモダンを弾き分けるという誰にも真似の出来ない演奏と発想でレコードアカデミー賞に輝く。

2003年5月には、バッハアルヒーフ主催の「バッハフェスティバル イン ライプツィヒ 2003」に参加。J.S.バッハ/ゴルトベルク変奏曲、C.P.E.バッハ/チェンバロ協奏曲 イ短調Wq.1(世界初演)等を演奏し、好評を博す。続く2004年8月、ドイツで行われたソロ・リサイタル・ツアーでは、地元紙から「“例外”のチェンバリスト」、「耳のご馳走」など大絶賛される。

2004年10月にC.P.E.バッハの作品を取り上げ行ったリサイタル(大阪・イシハラホール)が2004年度文化庁芸術祭・大賞を受賞。

ラジオFM COCOLO出演情報
「COCOLOバロック紀行」
FM COCOLO 76.5Mhz
2008年10月3日〜毎週金曜24:00〜25:00 On Air!

中野振一郎出演放送日:
2008年10/17、10/24、11/14、11/21、12/12、12/19、12/26(最終回・全員出演)

※バロック音楽の魅力やヨーロッパの街の話題などを、実際の演奏と共にお届け。2週ごとに延原武春と中野振一郎が交代で登場! ローランド社の最新型電子チェンバロ「C-30」をスタジオに持ち込んでの“生演奏”
※FM COCOLOは関西エリアの方が受信可能です。
最新アルバム
「17世紀ドイツ・バロックの鍵盤
音楽  中野振一郎(チェンバロ)」
17世紀ドイツ・バロックの鍵盤音楽 中野振一郎(チェンバロ)
発売日:2008年4月20日
発売元:若林工房
CD番号:WAKA-4126
曲目:
フローベルガー: トッカータ ト調 / 組曲 ハ調 / 組曲 ニ調 ブランシュロシュ氏を悼むトンボー
ヴェックマン: 組曲 ハ調 / トッカータ ニ調 / トッカータ ホ調
ケルル: 組曲 ニ長調 / チャッコーナ(シャコンヌ)ハ長調
ブクステフーデ: 組曲 ホ短調 BuxWV236
詳細はこちらにアクセス
アルバム「デュエット
〜中野振一郎(チェンバロ)&
高田泰治(フォルテピアノ)〜
チェンバロとフォルテピアノのた
めの作品集」
「デュエット〜中野振一郎(チェンバロ)&高田泰治(フォルテピアノ)〜チェンバロとフォルテピアノのための作品集」
発売日:2007年6月25日
価格:¥3,060
発売元:マイスター・ミュージック
CD番号:MH-1227
曲目:
1)J.S.バッハ:チェンバロとフォルテピアノのための協奏曲 BWV1061
2)W.F.バッハ:チェンバロとフォルテピアノのための協奏曲
3)J.L.クレプス:チェンバロとフォルテピアノのための協奏曲
4)C.P.E.バッハ:3つの小さな二重奏
詳細はこちらにアクセス
中野振一郎チェンバロリサイタル
「17世紀」〜バロック黎明期・ドイツからフランスへ〜
日時:2008年10月28日(火)
会場:大阪・イシハラホール
お問い合わせ:日本テレマン協会
TEL:06-6345-1046
中野振一郎リサイタル
中野振一郎のゴールドベルク変奏曲2008
・中野振一郎のゴールドベルク変奏曲2008
日時:2008年12月18日(木)
会場:名古屋・伏見ザ・コンサートホール
・中野振一郎のゴールドベルク変奏曲2008
日時:2008年12月28日(日)
会場:東京文化会館小ホール
お問い合わせ:オフィス ブロウチェク 052-935-9901
日本テレマン協会 東京定期演奏会
・第185回定期演奏会
〜ロココなチェンバロ協奏曲を
バッハの後に〜
日時:2008年11月23日(日)15:00
会場:東京文化会館小ホール
お問い合わせ:日本テレマン協会
06-6345-1046
2007.10.12 Vol.3 音楽大学に消去法で入学する学生が出てきたのは悲しいですね

日本が誇る世界的なチェンバリストの一人である中野振一郎さんにお会いしました。桐朋学園大学音楽学部演奏学科古楽器専攻を卒業されて以来、日本各地で公演をされながら、ソロ、アンサンブルを含めると、全世界で30枚を超えるアルバムを発表されています。今年発売された『デュエット』は、ピアノフォルテとの競演という珍しい試み。とにかくこのCDは、いくら聴いていても飽きません。
中野さんはおしゃべりも面白いともっぱら評判のかた。果たしてどんなお話が飛び出すことやら!

学生時代に遊んで弾いていた曲が、今の僕のレパートリーになっている

― ― 今日は、音大時代のお話を伺いたいと思っているのですが。

中野:あんまり為になる話はないと思いますよ。よろしいですか? 僕の音大時代4年間は、実に特殊な時代です。大人の学校に入り、しかも芸事を学ぶ不思議な環境でしょ? 桐朋学園はものすごく楽しかったですよ。でも僕は、悪い学生の模範みたいなところがあったんです。怠けていましたし、遊んだしね。周囲に刺激的な演奏者が多いから、大学生活は僕にはまるでドリームランドだったんですよ。

― ― 怠け者だったんですか?

中野:僕は根本的に怠け者です。でもね、怠け者体質の人は、何かを得るんです。他の人が何時間も練習せなあかんものを、短時間でできてしまう技(わざ)が付くんですね。

― ― あら、前回インタビューさせていただいた朝日新聞の音楽記者吉田純子さんも同じことを仰っていました。怠け者は初見の力が付くのだと。

中野:その通りです。初見の力は付きます。そして、バロック音楽にはそれがもってこいなんですよ。但し、バッハ以外ですね。バッハ以外の曲は、例えばその日に楽譜を渡されても弾けるし、そのほうがいいものができることがあるんです。というのは、バロックの通奏低音というのは、毎回入れるフィーリングが変わるものだし、ホールの雰囲気によってもアルペジオのテンポが変わるしね。だからチェンバロを今からやろうとしている人たちに言いたいことは、通奏低音が上手になることを望みます。

― ― なるほど。いきなり核心を付くお話を伺うことができました。では中野さんは、音楽大学というものをどうお思いでしょうか?

中野:大学というシステム自体はものすごく素敵だと思いますね。なにしろ人生の中で唯一大人の学校です。そして、自分の趣味で選んだ学問を勉強できる場所です。特に音楽大学の場合は、芸事の世界ですから、一般の大学以上にこの先生のレッスンを受けたいからこの大学に行きたい、という風に選べます。音楽大学はそういう憧れをもって行くべき場所だと思います。

― ― 中野さんご自身もそうだったんですね。

中野:僕が桐朋を選んだのは、鍋島元子先生という僕の先生がいらしたからです。入学してからは桐朋の校風や雰囲気にもなじんだので、学生生活自体が楽しかったですけどね。毎日飲んでなんぼ乱れてぐちゃぐちゃになっても、桐朋には音楽馬鹿が集まるんで、音楽の話だけは常に盛り上がるんですよ。だから音大というのは目的意識があるからいいものだ、これは誇れると思っていましたね。

― ―でも、怠けていた?

中野:サボることもひとつの美学と思っていたんですね。それに当時住んでいた部屋は学校から徒歩30秒のところだったんですよ。30秒ですからね、みんなのたまり場になるし、宿泊所にもなるという・・・。

― ― すると、チェンバロの練習にも支障があったのでしょうか?

中野:いや、桐朋学園は朝の5時から夜の10時まで学校で練習がし放題だったのです。だから僕の家にはチェンバロはなかったんですよ。あの学校はね、行くだけでけっこう面白いところがありましてね、当時だと、アイザック・スターン、小澤征爾先生、ロストロポーヴィチとかが、キャンパス内に普通に歩いていたりするわけです。ちょっとしたハリウッド的なところがあるでしょ? そういうのを見ているだけで面白かったし、感化されて「あの先生の真似しよか」とか言ってね、みんなで人真似の演奏をして遊ぶわけです。でも、それが今になってみると、非常に為になっているんですね。あの頃遊んで弾いていた曲は、今の僕のレパートリーになっている。例えば、バッハの「6つのヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ」や、「フルート・ソナタ」は、猛練習したんやないんです。遊びでやっていたものが今の仕事につながっているんですよ。

幼い頃からバロックやロココ時代のコスチュームや絵に惹かれていた

― ― 中野さんは3歳からピアノを始められとお聞きしました。チェンバロに惹かれた理由はなんでしょう?

中野:チェンバロの音色を初めて聴いた時に、弦をはじいている音がするのに鍵盤楽器であるというのは、ピアノと全く美意識が違うので、ショックがありましたね。そういう音に惹かれたことと、チェンバロが存在する当時のポートレートとが合体して、魅力を感じたのですね。

― ― ポートレートとは?

中野:そもそも僕は、このオペラが振りたいから指揮者になったとか、ラモーが弾きたいからチェンバロを始めたというような、音楽的な理由はないんですよ。幼い頃からバロックやロココ時代のコスチュームや絵に惹かれて、そういう格好を自分で作って"バロックごっこ"なんて言って遊んでいたんです。その時に必需品としてチェンバロが必要だったわけですね。例えば、18世紀を描いているフランス映画やイギリス映画でのコスチュームがありますね、そこにチェンバロの音が流れてくるとしびれる子供やったんですよ。変わっているでしょ?

― ― それは理屈じゃないですね。その世界にはまったという感じ。

中野:そう。それで僕はもともと絵が好きだったので、18世紀の絵ばっかり画いていたんですよ。すると親父がそれを見て、「これは18世紀の襟の形と違う」と言うんですわ。普通、小学3年生の子がモーツァルトの肖像画を画いていたら、「おお、上手に描いたな」とおだてるものやと思うんですが、僕の親父は物理学者なもんで、うんちくの塊のような人やったからね、一応教養があるんです。で、その言葉を聞いて僕はムカってきて、「親父よりも時代考証は上になってやる」と、その時に誓ったんです。そしたらいつのまにかチェンバロをやっていたわけです。スピネットを買ってもらって、ピアノの練習をサボってはスピネットばかり弾いて遊んでいました。

― ― チェンバロ奏者になろうと思ったのはいつ頃でしょうか?

中野:自分が好きな17〜18世紀の楽器であるし、将来はこれをやろうと思ったので、高校入学の前に、「チェンバロ奏者になりたいけれどもどうしたらいいでしょうか?」と、ピアノの先生に伺ったんですね。二つの方法があるとアドバイスをいただきました。ひとつには、音楽学というものを勉強して、ドイツへ行って、ドイツリートの伴奏を勉強しながら片手間にチェンバロを弾く人になる。もうひとつは、最初からチェンバロ演奏者としてステージに出る人間になる。周囲はみんな音楽学のほうを推薦するわけですよ。今になってみればそれは為になる道だったと思うんですけれども、怠け者の僕に、音楽書をどんどん渡して勉強させてもね・・・。とにかく高1から音楽学の勉強を始め、先生にもけっこうかわいがっていただいたのに、僕がサボってしまったので、先生はだいぶ切れていらっしゃいました。それで「僕はチェンバロがしたいんです」と先生に言いましたら、鍋島元子先生しかいないと仰って、紹介してくださったのです。そこからいろいろとまた苦労が始まるんですが、とにかく幸いも大学に入れていただきました。

チェンバロは、指先のタッチひとつで様々な音色を出せるのが魅力

― ― チェンバロという楽器について、簡単に説明していただけますでしょうか?

中野:チェンバロは昔の楽器です。17〜18世紀に、一番花盛りになるわけですが、簡単に言うと、フランス革命で滅びた貴族の象徴のような楽器です。ヨーロッパの音楽では常に、鍵盤楽器が主導権を握るんですが、それって珍しいんですね。例えば、ヴァイオリンやフルートに似た楽器は、ヨーロッパ以外の地域や国にもありますが、ボタンひとつで音が出るような機械的な鍵盤楽器は、実にヨーロッパ的なものなんです。そのなかでも一番君臨した楽器がチェンバロです。ピアノの場合は、ハンマーが付いていて、それが弦を叩くわけですが、チェンバロは爪が付いていて、爪が弦をはじくのです。ピアノは大きな音と小さな音が出ると言いますけれども、大きな音、小さな音というわかりやすい表現よりも、チェンバロの勝負は音色です。楽器との接触地点が指先しかありませんから、張った音、寝ている音、ぬれたような音を、指先のタッチひとつで出せるところがチェンバロの魅力ですね。ただ、それを自由に表現するには、ものすごく時間がかかるので難しいのです。

― ― ピアノを習っている子がチェンバロに惹かれることはよくあると思います。例えば、中学生くらいの頃に、チェンバロもやってみたいとか、ピアノから転向したいとか思い始めた時、チェンバロは身近にありません。どうしたらいいでしょうか?

中野:チェンバロの美意識を備えた楽器ということで、僕が小学校の時に親にねだって買ってもらった小型の「スピネット」という一段鍵盤の楽器があります。あるいは「ヴァージナル」ですね。そういう小型のチェンバロがありますよ。チェンバロは大変高価な楽器と思われていますけれども、ピアノやヴァイオリンの上等なものに比べると、安い楽器です。ヴァイオリンの場合は、オリジナルを求める傾向がありますが、チェンバロはそうそうオリジナルは見つかりませんから、すべてレプリカなんですね。現在のチェンバロ製作者が、新しいアイデアを取り入れながら、ルールに基づいてすべて手作りしています。チェンバロの製作者と親しくなって上手に注文すれば、お金の払い方も相談できるでしょう。それから、バッハも弾きたいし、クープランも弾きたい、オールマイティなんでも弾きたいと思ったら、フランスのスタイルの楽器を求められることをおすすめします。

☆中野振一郎さんのCD、DVDはこちらから購入できます。
*若林工房から発売されているCDはこちらまで。
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Vol.5 2008.02.06 村松崇継さん 作曲家・ピアニスト
Vol.4 2007.12.17 檜山乃武さん 音楽大学准教授
Vol.3 2007.10.12 中野振一郎さん チェンバロ走者
Vol.2 2007.8.27 吉田順子さん 新聞記者
Vol.1 2007.7.25 中村由利子さん 作曲家・ピアニスト