
芸術情報学部 音楽表現学科
音楽ビジネスコース 准教授
日本大学芸術学部演劇学科卒業。(株)邦楽と舞踊出版社(編集記者)、(株)学習研究社(音楽制作ディレクター及び書籍編集者)、(株)BMGビクター(現BMGJAPAN)(レコーディング・プロデューサー及びディレクター)を経て、2004年4月から現職。
担当科目:「音楽メディア産業論」「音楽出版論I」「音楽出版論II」「基礎演習I」「基礎演習II」「総合演習I」「総合演習II」「卒業論文」
主な作品:「すすめ!ドラゴンキッズ」「サンゴ礁のマーメイドとリトル・パイレーツ」「ボラdeサンバ」他(以上、歌詞)、評論「現代邦楽名曲選」(月刊「邦楽と舞踊」1982年〜1993年連載)、ウィンド・アンサンブル「Allegro1」「クラスで作るDVD小さな合唱劇」CD全集「Angel’s Voices」「モリコーネ・アンソロジー」「70年代フォーク&ポップスGood Days」タワーレコード「RCAプレシャス・セレクション」(100タイトル)他(以上、企画プロデュース)
▼音楽ビジネスコースの
基礎演習VとIV
「基礎演習V」では企画力を育む授業を行う。45名程度のグループを組み、各自が役割を担って「音楽付き朗読劇」を作り上げる。発表後は批評までを実施し、自身の責任を自覚しながらひとつの仕事を成し遂げる体験を得る。「基礎演習IV」は他大学では見られないオムニバス講義群が組まれており、音楽業界で活躍している特別講師を招いて講義を行なう。現場の現状や問題点を直接知ることができる。
▼奈緒(シンガーソングライター)
1983年生まれ。3歳からピアノを始めて幼少の頃から、ジャズ、クラシック、ブルースなど様々な音楽に触れる。14歳から作曲活動を始め、音楽大学では作曲を専攻。在学中は、楽曲制作と並行し、シンガーソングライターとしてクラブのステージに立つ。2007年、全国デビュー。ファーストミニアルバムは、R&Bを基調としたダンサブルナンバーから、リズミカルなポップス、ギターとピアノだけのやさしいバラードまで、幅広いジャンルの楽曲が揃っている。
今回の「音楽インタビュー」は趣向を変えて、音大出身者の方ではなく、音大の先生にご登場願いました。檜山乃武准教授は現在、「尚美学園大学音楽表現学科音楽ビジネスコース」において、主に音楽産業の仕組みやそこで働くために必要な知識と実践力のご指導をされています。ご自身の、音楽関係の仕事を20年以上された後に音楽大学の先生に転職されたという経歴にも注目です。
演奏、作曲、音楽教育、音楽学といった音楽大学に従来からあるコースに加えて近年は、音楽ビジネス、音楽マネジメント、運営などの名の付いたコース・専攻が多くの音楽大学に設けられるようになりました。これらのコースでは、将来音楽ビジネスの世界で活躍出来る人材を育成することを目的にしています。
では、その教育内容はどんなものなのでしょうか。そのあたりのことを中心にお話を伺いました。
![]()
音楽の現場で経験したことを、なるべく盛り込むようにしている
― ― 檜山先生は、日芸(日本大学芸術学部)演劇科のご出身なんですね。
檜山:ええ。専攻は戯曲でした。ですから、大学時代は脚本を書いていました。
― ― それでは、芸術系の大学の雰囲気というものをご存知でいらしたわけです。
檜山:芸術系の大学のキャンパスにまた戻ってきたという楽しさはありますね。
― ― ご自分の学生時代と比べて、今の芸術系大学の学生の印象はいかがですか?
檜山:想像していたのとは違っていましたね。今は、よく言えば真面目な子が多い印象です。反面、少々押しが弱いという感じも受けます。
― ― 学生たちのことについてはまた後ほど伺います。最初に、「音楽ビジネスコース」で現在、檜山先生がご担当されている科目について教えてくださいますか?
檜山:では、まず「音楽メディア産業論」から。この科目は、去年までは「レコード産業論」という名称でした。従いまして、レコード会社のビジネス、つまり「音源制作のビジネス」を核にした内容のことを教えます。しかし、音源は現在、CDだけではなく、インターネットを使った音楽配信もあるなど、音楽メディアの形態が色々なものになってきています。そこで今年から、科目名称を「音楽メディア産業論」に変更しました。
― ― 「音楽メディア産業論」では、具体的にどのようなことを教えているのでしょうか?
檜山:音楽ビジネスの基本であるところの「権利関係」と「音楽制作」の仕組みをわかりやすく教えようとしています。なおかつ、音楽制作を行っているのはレコード会社よりむしろ、音楽制作プロダクションや音楽出版社、アーティスト・マネジメントのプロダクションなどであると言うようなことも教えています。学生たちそれぞれが、学んだものを卒業した後にどういう場所(職場)で発揮出来るのかということを考えてもらうためです。
― ― 檜山先生ご自身がレコード会社で働かれていたご経験を生かした内容のようです。
檜山:そうです。ですから、現場での経験の話をなるべく盛り込むようにしています。例えば、「企画・制作」「宣伝」「販売」の仕事の違いと、その関係を通して生れてくる「人と人とのコミュニケーション」の必要性についても理解してもらいます。また、レコード会社がこれまで築いてきた音源である「カタログ商品」活性化の重要性についても認識してもらえるように説明しています。最近でも「R35」や「TEARS」等の人気コンピレーション・アルバムはどんな背景から制作されるのか、なぜ「カタログ」商品は利益率が高いのかといったことを、実例をあげながら解説していきます。そこから「企画力」を学んで欲しいですね。
― ― なるほど。非常に具体的な実例を取り上げての授業内容なのですね。では次は「音楽出版論」ですが、これはIとIIがありますね。
檜山:「音楽出版論I」とは、「楽曲の著作権」に関することです。権利関係は音楽ビジネスの基本であることを教えます。そして、その権利が行使出来る範囲や事例を説明していきます。例えば、ある音源が映画に使われたり、CMに使われたりするときに、どういう権利が発生するかというようなことです。また、音源は使用出来てもその楽曲を歌っているアーティストの顔写真にはまた別の権利があるなど、権利の様々なあり方についても教えています。ですから、この科目においても私がレコード会社で実際に契約の際の経験してきた話を織り込みながら話すようにしています。
― ― できるだけ現実的、具体的なことなんですね。ところで、一般の人は「音楽出版」と聞くと、音楽関連の書籍や音楽雑誌を発売している出版社のことだと思うでしょう。しかし、音楽ビジネスの世界では、楽曲の著作権のことを「音楽出版」と言うのですね。
檜山:そこは少々ややこしい部分です。音楽関連の書籍や雑誌を作ることもやはり「音楽出版」なのです。そこで、「音楽出版II」のほうは、音楽書の編集を学ぶ科目になります。音楽雑誌、音楽書籍、またはCDのパッケージなどの印刷物の制作に関することを全般に学びます。雑誌や書籍の企画書づくり、プランニング、台割り、原稿作成や校正、デザインなどを行ないます。ですから、「音楽出版II」のほうは実習が中心となり、学生の企画力やアイデアを伸ばしていくことを心がけています。
音楽に関係するメディアには、出版、録音、イベント、放送の4つがある
― ― 次は「基礎演習」という科目ですが、これもIとIIに分かれています。
檜山:「基礎演習」はIからIVまでありまして、私が担当しているのはIとIIです。1年生を対象にしています。2年生までにIVまでを終えて、3年生になると「総合演習」を行ない、4年生の「卒業論文」へというひとつの流れになっているのです。この科目の目的は、音楽業界や音楽ビジネスを目指す学生たちなら最低限知るべきであろう音楽の知識や教養を、4年間で多角的に教えようというものです。その最初の段階である1年生の「基礎演習I」と「基礎演習II」では、例えば、音大に入学した学生であっても、ベートーヴェンの交響曲がいくつあるかを知らなかったり、最近はビートルズすら知らない場合があったりするので、とにかく様々な音楽を幅広く聴かせていこうという趣旨です。
― ― 専攻にかかわらず、基本的知識のようなものを最初に教え込むという試みは、どうやら他の音楽大学でも意識して行なっているようです。昔の音楽大学にはなかったように思います。
檜山:逆に言えば、最近の学生たちはあまりにも知らなさすぎるのかもしれません。
― ― クラシックのみならずジャズやポピュラー音楽も既に歴史をもち始めましたから、知るべき音楽の量や幅が単純に考えて増えているという背景もありますね。また、小・中学校の義務教育の音楽教科が、クラシックだけじゃなく、ポップスや民族音楽、邦楽など幅広く教えるようになりました。音楽教師を輩出する音楽大学では、そういう変化を踏まえてフォローしていかなければなりません。
檜山:ただし、知識を受けとるだけの授業ではいけませんから、学生たち一人ひとりが、自分の好きなアーティストや音楽をみんなにプレゼンテーションするというスタイルの授業も採り入れています。それぞれが自分で資料を調べて用意して、大勢の前でしゃべるのですが、これは同時にコミュニケーション力を育てるという側面を意識しています。
― ― それはいい試みですね。「基礎演習」は2年生でIV(※1)までを終了し、3年生の「総合演習」につながるのですね。「総合演習」とはゼミ形式のものでしょうか。
檜山:そうです。音楽に関係するメディアには、出版、録音、イベント、放送という4つがあります。そこで、学生たちはそれぞれここからひとつのメディアを選んで、1年間、専門的にそのメディアについて深く学ぶというシステムです。
― ― 檜山先生はその中で出版メディアを担当されているのですね。実際に印刷物を作るのですか?
檜山:毎年、雑誌を1冊作っています。私は、あまり口出ししないで、出来る限り学生達の企画、アイデアを尊重し、困ったときにアドバイスをしています。ですから毎年、違ったカラーの雑誌になって面白いですよ。今年は、思い切って、本校の卒業生でシンガーソングライターとしてプロ活動している“奈緒”さん(※2)に協力してもらって、彼女のプロモーション・ブックを制作し、併せてレコーディング、イベントもやってしまおうという盛り沢山な企画になりました。
― ― 面白そうですね。そして、4年生になったら、学んできたことをベースに「卒業論文」を仕上げるわけですね。著作権や音楽メディアについては、関連科目として取り上げることはあっても、音楽ビジネスの現場に直結するような内容のことを4年間専門的に学ぶというのは、これまでの音楽大学にはなかったように思いますが。
檜山:そうですね。例えば「音楽メディア産業論」の前身である「レコード産業論」という科目が今まではなかったでしょう。「著作権」について学ぶ科目はこれまでもありましたが、制作全般における権利の仕組みを教えるような科目はなかったのではないでしょうか。
― ― 音楽業界に就職を希望する学生にとって惹かれるカリキュラムだと思います。
檜山:ただね、就職サポートのために音楽業界の企業に私も行きますが、企業の方から必ず言われることがあります。「専門的なことは入社してから教えられるけれども、電話のかけ方をはじめとして、社会人としてのマナーを学校時代に教えておいてほしい」と。ですから、そういう部分にまで対応出来る授業を意識して行なってはいます。
― ―社会人としてのマナーですか?!
檜山:ええ。例えば、仕事では「報告、連絡、相談」というものが非常に大事なんだよということを教えています。ホームルーム的な授業を行ない、学生一人ひとりに就職活動の報告などをさせ、その学生が体験したことをテーマにしてみんなで話し合うのです。そのとき、世の中で起こっている出来事にもなるべく触れるようにして視野を広くさせようとしています。つまり、社会人として注意すべき点についてなるべく具体的に、現実的に、こういうときはどうしたらいいのか、という感じで話し合うわけです。私も体験談を話して聞かせます。






